甘口ピーナッツ

多めの写真やTwitterに書ききれないことを書く

彼が最初に守りたかったもの 〜ワーフリ世界観考察〜

はじめに

書きだし

 先日3周年を迎えたゲーム「ワールドフリッパー」。ピンボールを原型にしたゲーム性に大変力の入ったドットアニメーション、奥が深く深い世界観にそれを彩る魅力的なキャラクター群と、飽きの来ないタイトルだ。高い放置性にも助けられて細く長く続けられているし、たぶん永遠に遊べる。いつだってTwitterとDiscordで踊っていられる。

 すごくメチャクチャ勢いがあるぜ!嬉しいね!

 そんなワーフリだが、中々に難解な部分もある。作中の用語や概念の中には単語の表出や示唆に留まるものがいくつかあり、中には特定キャラの特定エピソードにしか出てこない語彙も見いだされたりして、大変苦しく大ッ変楽しい。底の見えないおもちゃ箱のようである。不明で雑多な状態はストレスであり、だからこそそこに理路を見出そうと試みる行為はそれだけでたいへん面白くまた尊いことだと思っている。

 ともあれ、ワーフリ内の用語や俗語をゲーム内で辞書的にまとめた「星見の図鑑」が1年ほど前に実装され(上の動画が2:33秒で全てを解説していてたいへん良い。他に挙げてらっしゃる動画も大変健康に良いのでぜひ観よう)、そういった不明な部分も少なくなった。キャラを引くたびに右上に「キーワードが追加されました」!という文字が躍るので、そこを見に行けば良い。整理された、明るい福利厚生である。うれしい。

 一方で、図鑑に書かれていない、意図的に省かれている物事も確かにあると強く感じている。章が進んだりキャラが追加されるたびに既存キャラの図鑑に段落が追加され、そのたびに気付いた方から阿鼻叫喚があがる。私もネタバレを避けて無言で倒れ伏しているのだが、この間の11章に合わせて追加されただろう諸々を眺めているうちに言えることが出てきたので、忘れないうちに書いていく。切り口はレシタール、彼は過去に一体何をしたのか、という考察だ。彼は大罪人なのか、それとも救世主なのか。

ワーフリ黎明期の噂話

wasuku.gamewiki.jp

 陽気で飄々としたレシタール。マルチボスの方は何とも顔色の悪い紫骸骨だが、彼がドロップする武器のフレーバーテキストについてゲーム黎明期から色々と囁かれていたと記憶している。とりあえず見ていこう。

死皇の剣

世界樹の奥深くで見つかった絶品。かつてこの世界を牛耳った大罪人が振るった剣

wasuku.gamewiki.jp

死皇の斧

世界樹の奥深くで見つかった絶品。あまたの争いを鎮めるために振るわれた斬首用の大斧

wasuku.gamewiki.jp

死皇の書

世界樹の奥深くで見つかった絶品。世界樹が生まれる前の歴史が記された手記

wasuku.gamewiki.jp

死皇って誰だよ!?

 いやあ、何ともクッソ不穏なフレーバーテキストである。剣には「かつて世界を牛耳った大罪人」なる奴がいたといきなり書いてあるし、斧は「争いを鎮めるために振るわれた斬首用の大斧」と明らかに暴力で爆鎮せしめているし、とりあえずその書物みせて?となること請け合いである。そしてこれに関して、きっと大罪人はレシタール自身だろう、でも首がくっついているが?死人が肥やしになったから立派な森林が出来たんやろなあ、などと様々な言説があったと記憶している。

 これらに関して、どれも同様に支持されるものだと感じている。面白く、頷ける話だ。一方で根拠を求めようとするとこれが苦しく、またそもそもゲームの武器のフレーバーテキストにどこまで意味を見出すべきか?という問題もあり、そのうち語られることも無くなっていった所感である。私も粛清者討伐戦でのあの一幕を拝むまで忘れていた。

チャルアが見せた異常

 その一幕とは章名「深淵より響く」から「掴め、全ての子達よ。」に至るまでの一連の流れである。端的に言うなら、チャルアとレシタールが協力して呪文を唱えると、難敵を打破する糸口が見えた、というくだりだ。

 「ゲーム最初期登場の天真爛漫キャラたちが、ラスボス格に致命的なメタを張っている」のである。

 明らかにおかしい。

 いやそういう初期キャラが実は!な展開は大変美味しいし小説やゲームにおいても大好物の展開だが、一方でこういう筋書きはご都合主義と表裏一体であり、おいそれと持ち出されないことである。特にワーフリはそういった都合で人が生き返ったり奇跡が起きたりをしない点で大いに信頼しており、ポッと出の論理ではないだろうと思っている。

 じゃあ何なの?チャルアとレシタールは何なの?という自分が抱いた疑問を、自分なりに解いていく過程を開陳していく。思考の言語化は大変苦痛とストレスを伴うが、だからこそ形に成った時は気分が良いものである。みんなも考察、しよう!

田村の沈思黙考な性質、大変好き。寄生獣をみんなも読もうね

考察の方向性

 さて、方向性としては一般的な、情報の陳列を行った後にそれらを整合的に繋ぎ合わせていくパズルのような方式を取っていく。たぶんこうだろうという直感を大事にしつつ、その直感を裏付ける内容を探しつつより納得の強い論理図を組み上げていく。

 そのために、まずはストーリーとキャラクターエピソード、あとは適宜星見の図鑑を抜粋しつつ考えの手がかりを探していく。中には丸3年の月日を経て再読するような部分もあるので新鮮な気持ちで読み返していた。ワーフリ公式の企画もあってキャラエピを再読したり書いたりしているが、やっぱり楽しい。

情報列挙

 上から、

  • ストーリー第1章『精霊の楽園』解説
  • キャラクターエピソード説明
  • 期間限定ストーリー『粛清者討伐戦』抜粋解説
  • 星見の図鑑抜粋

 の順番で書いていく。およそ『精霊の楽園』にまつわる内容は可能な限り網羅したつもりだが、他のキャラエピでピンポイントに登場したりしている場合は探し切れていないので、お気づきの点があったらぜひTwitter( @jimmy_9609 )にご連絡いただきたい。泣いて喜びます。

第1章『精霊の楽園』まとめ

 最初はテキスト読解、第1章で語られた要素を章ごとに抜粋しつつまとめていく。固有名詞が含まれていたり何かしらの定義を含む情報を拾い、辞書的に活用することを目的とする。

www.youtube.com

 動画で見聞きした方が頭に入る!という人は上の配信者さんの動画がおすすめ。聴きやすい声にまとめ方も丁寧で、すごく頭に入る。日々ワーフリ動画を出されていてパーティ編成に新キャラ評価にとすごく勉強になるので、ぜひ観よう!たまにお呼ばれして私も喋らせていただいています。

世界概要

見渡す限り全てが森の世界。一行はライトの世界の座標を求め、ワールドフリッパーを探すことにする。

森の中心には、どこからでも見えるほど巨大な樹木『世界樹』がそびえ立ち、精霊や魔物が繫栄する――― しかし生きた人間は1人も存在しない世界だった。 精神に変調をきたしていた世界の守り人レシタールを正気に戻すと、一行は次の世界への扉を開いたのだった。

 星見の図鑑より引用。ゲームが始まって一番最初に降り立つ場所なだけあって、全くもってオーソドックスな、起伏の少ないシンプルな章だった。開始当初「読みやすい章だなあ」などとぼんやり思いながらアッサリと読み進めて、颯爽と2章に降り立って天真爛漫金髪ショタ王子(故人)(故人!?)に事故った記憶がある。

 正直に申して初読の印象が薄い章段だ。チュートリアルのような話だとのんびり読んでいたし、ちゃるあかわいいなあという所感がある。一方で昔読んだ本やアニメを眺め直すと全く違った話に見えることがあるのと同じく、知識や経験、思考の網の目の変化によってテキストは新たな相貌を開示するものだったりする。これは先述の通り、3年の月日を経て様々な様相を示したワールドフリッパーという作品の中で、いま一度第1章『精霊の楽園』の再読を試みるものである。一緒に懐かしんだり読み直したりしてもらえたら、いちプレイヤーとして何となく幸いだ。

1-1 世界に降り立つ

  • ライトたちは最初にこの場所に降り立った。

1-3 旅のはじまり

  • ワールドフリッパーは神殿や遺跡など、古い時代から要となる場所にある。
  • 世界樹からは尋常のものではない力が発せられている。

4-1森の精霊

  • チャルアは太陽光と水で復活できる。
  • チャルアは言葉を使える存在を人間と認識している。

4-3チャルア・チャルワ

  • 「こわいの」が来て、森はおかしくなった。
  • 言葉を使うのはレシタールとチャルアだけである。
  • シタールは「もりびと」=守り人である。
  • シタールはチャルアに言葉と名前を与えた。
  • チャルアはステラに対して「どこも壊れていない」と声をかけた。
  • チャルアはステラの最初の友達である。

6-1 世界樹

  • 世界樹からは魔族が使う『呪い』と同種の瘴気が感じられる。
  • チャルアは森の子、世界樹の子。
  • 世界樹は人間の言葉以外の言葉を持つ。

7-1 異変

  • 異変の元凶は寄生樹である。

8-1 闇からの使者

  • シタールは人間を「羽虫」と形容している。
  • シタールは過去に人類を根絶やしにしている。
  • シタール台詞「凍てつく死の水底」

8-3不死の王

  • シタールは不死者であり、不死の根源が存在する。
  • シタール台詞「永遠に続く闇の鉄鎖を、私と、共に」

8-4繋がる世界

  • ワールドフリッパーは伝説の扉であり、だれも起動できなかった。

ここまでのまとめ

 第一に目を引くのはチャルアの存在だろう。最初読んでいた頃は現地住人の一人だろうかと大きく気を配ることはなかったが、先述の通り11章という大一番で明らかに異色の働きを見せており、ここで初めて「もしかしてこのキャラってイレギュラーな存在か…?」と肝を冷やすのである。レシタールに名前と言葉を与えられたという森の子チャルア、木の精霊を自称する彼女は、一体何なのか。

 また、暴走したレシタールが死に至らしめた人々に対して「凍てつく死の水底」、そこに含まれる自身の境遇を「永遠に続く闇の鉄鎖」と表現しているのも象徴的だ。水底に鉄鎖に、森林世界にはおよそ馴染まない言葉が躍っており、再読するに妙な感覚があった。ワールドフリッパーの存在を知らなかったレシタールは、一方で何を知っているのか。

 思えば、ライトたちが初めて訪れた場所がここ『精霊の楽園』であったことは偶然なのだろうか。もちろんこれは〝そういう〟話だからだというメタな理由付けは可能だが、それでも直でパルペブラに着弾していたら今の拠点をゼロとして世界を巡れていたはずである。わざわざ1章→パルペブラ→2章以降という構成にしたことに、意図はあるのだろうか

出身キャラクターエピ・星見の図鑑より

 考察を進めていく前に、レシタールやチャルア、他にいる『精霊の楽園』出身のキャラクターに関する情報もまとめていく。その数総勢6人、泣けるほど少ないが土地の性質故か。引用に関しては、

枠内:星見の図鑑の抜粋

  • 箇条書き:キャラエピの要点

 という形式で書いていく。また、キャラエピは実装当初の内容であるのに対して星見の図鑑は逐一更新されていくため順序がおかしい部分もあるかもしれないが、そこは現時点で存在する情報塊を一握として解釈していくこととする。レアリティもかなり低めなので皆さんの手持ちにきっといるに違いない、ぜひご覧おきください。

風星3レシタール

シタールには悔恨がある。

シタールは慈愛を以てチャルアに接している。

「死を感染させる」生命操作の邪法によって世界を滅ぼした過去がある。

  • シタールは賢者などではない、罰せられる機会を得られなかった存在である。
  • シタールにとって勇者への協力は罪滅ぼしである。
  • シタールは「力ゆえに道を踏み外し」た。

 好好爺風に振る舞う愛すべき謎ガイコツマント、ボスマルチでは今日も元気に赤髪宇宙女海賊朴訥死にぞこないデカ獅子に吹き飛ばされているが、その実バックボーンが想像以上に底知れない。過去に何かしらの罪を犯し、そのために生き永らえ、その果てにチャルアを生み出した存在、だろうか。先日更新された星見の図鑑では「世界を滅ぼした」とまで言われており、ある種の罪人であることは間違いない。

 また本論からは外れるが、キャラエピ2では認識論に関する語りが展開されていて興味深かった。我々が感じている「美味しい」は果たして同じものなのか?あなたが感じる赤とわたしが感じる赤は違うのではないか?とシロが口にし、それに対して「このスープは旨い!」と自己中心性に膾炙して解決する。ソシュールが編んだ構造主義言語学の入り口のような、教科書のような話だったし、『異なる者たちの相互理解』を標榜して始まったゲームのロンチキャラに相応しい話だろう。ワーフリは初期キャラでも濃厚な話が眠ってるから困る。ハートリーフとか。

magazine.cygames.co.jp

風星3チャルア

亜人とは異なる、新たなる知的生命体。自由意志を描くエレメントの化身。真なる精霊。

本来は神に近い存在であった。

最初に「悔恨と涙」に触れ、その後「歓喜の渦に包まれ」ることで心を得た。

精霊の楽園は上位者達も知らない最果ての地である。

  • チャルアは星に魅せられた変わり種の精霊である。
  • チャルアは大樹から旅立つための足と、星を愛する心を得て産まれた。
  • チャルアは太陽の祝福を知っている。
  • チャルアはレシタールの愛娘である。
  • シタールは大きな喪失を抱えている。
  • 精霊はレシタールの悲しみを埋めるために生まれた。
  • チャルアがいつチャルアとなったかは曖昧。
  • チャルアは森の声を聞ける精霊の子であり、ステラの役に立てる。

 底抜けに明るい植物系元気っ娘。スレンダー手足と捉えどころのないフワフワボイスで一番最初に遭遇したアルク一行を包み込んだ立役者。先日更新された星見の図鑑では「新たなる知的生命体」「本来は神に近い存在」とまで言われており、レシタールと同じく規格外の存在であることが伺える。神ってまじかよ!

 ここで立ち止まって考えるべきは「そもそも神とは何か?」という点だが、過去に書いた星砕きの巨神まわりの考察を参考にして一旦「願いを叶える存在」辺りを代入し、あとは別論を待ちたい。ワーフリは考えるところが多い。

 星見の図鑑にある「悔恨と涙」はレシタールのこととして、その後の「歓喜の渦」とは何だろうか。チャルアの年齢を考えると数1,000年前の出来事なので年表が埋まらない部分だが、周辺に存在する物事を鑑みるに、精霊の祝福を受けて自然発生した、という解釈になるだろうか。それ以外に歓喜を向ける存在はいるのだろうか。

水星3チャルア

チャルアは『世界樹』から生まれた精霊である。

クリスマスツリーの在り方に感動して変化した姿。

  • 人間の願いを聞いた木は声が残る。
  • チャルア詠唱「風、星、声。ひかり。」
  • チャルア詠唱「チャルア、森の子。世界樹の子。声を聞き、願い紡ぐ。悠久の継人。目覚めよ、そして聞き給え!」
  • 大樹の世界にも星の祝祭が存在していた。

 ほぼ配布のような存在だったと記憶している。樹木系少女がクリスマスツリーに!とだけ書くといっそ猟奇的だが、チャルア自らが「クリスマスツリーになりまーす!」と口にして成立した姿なので何も嘘が無い。そもそも「クリスマスツリーの在り方に感動」というのが慮外の感性だが、不思議と違和感のないエピソードだった。

 チャルアの詠唱はどこかシャーマンやベスタ族のような、魔法学院で教わる通常の詠唱規則にはまらない独特の形態になっている。「星」や「声」とは属性どうこうというよりは一つ違うレイヤーでの定義、「風」がシニフィアンなら「声」はシニフィエのようなより抽象的な概念を使役しているように思える。彼女には何が見えてるんでしょうね……?

 なお、魔法に関しては下記の記事が体系的かつ網羅的でとても良い。大いに同意できる要素が詰め込まれており、ふと引っ掛かった時に拝読しに行くと思考が整理されて良い。そもそも祈りを捧げたら巨大ロボが動いてビームを撃った!を大真面目に包含しようとしている魔法体系なので、これだけでも大いにご飯が食えるし大変面白い。ワーフリ自由研究またやって♥

note.com

風星4カロ

風の精霊と交信する力がある。

  • カロ詠唱「風……星をさらうもの つれてゆけ。」
  • 風は魂を運ぶ。
  • 肉体は器であり、魂は別にある。
  • 器は土にかえる。土は木になる。木は風をうけとめる。そうして友達はかえってくる。
  • ハオは、人間と同じになる必要があると考えている。

 示唆的なのは詠唱と現実との照応からわかる、さらわれる星=死者の魂という点だろうか。ワーフリに関わらず最近の作品は抽象的な言葉に複数の意味を載せていることが多く、だからこそこういった朴訥に喋ってくれるキャラは貴重だ。顔も良い。

 そもそもハオはどこから来たのか?という論題が登場当初から囁かれているが、こればっかりは正直よく分からない。漂流者では?というのは考えられる話だがそれならもっと多くの漂流者が現れていなければならない、少なくとも漂流者コロニーの一つや二つも欲しい気がするし、本当にカロが唯一の漂流者ならそれを担保する必然性が彼にあるはずであるし、いや中々悩ましい。謎多き野生イケメンである。

雷星3ホーニィ

森に棲む蜂型の魔物である。

人語を覚える魔物は変わり種である。

『ホーニィ』という名前をとても気に入っている。

  • ホーニィは魔物である。
  • 言葉は必要とされないと発生しない。
  • 精霊は言葉を使う。
  • ホーニィはライトに卵を産み付けたい。

 一時期はバラクと組んでスキル軸のメインを張っていたキャラであり、そもそも昆虫系モンスター娘の存在自体がイレギュラーで可愛い。素性がモンスターだからなのか本能全開で振る舞うし、そのたびにライトは犠牲になる。こういう人外慮外で常識の通じないモン娘追加、お待ちしてます。

 気になるのは一点、星見の図鑑の末尾に書き加えられた「『ホーニィ』という名前をとても気に入っている」というフレーズだ。『精霊の楽園』4-3「チャルア・チャルワ」においてもチャルアが「名前と言葉を与えられて産まれた」と明言している。この名前を与えるというファクターが、森の中で不如意に生じた彼女たちにどういった意味を与えているのだろうか。

光星3モーラ

蚕らしき魔物の少女。

ニンゲン(註:≒人間?)に強い興味がある。

  • モーラは魔物である。
  • モーラは人間を知りたいと思っている。
  • モーラは精霊から人間を教えてもらった。
  • モーラはアルクのパンツを編もうとしている。

 モン娘二人目。白とグレーで大体の要素が構成されているのに暖かさと柔らかさを感じられるのイラストレーター・パワーを感じる。カロと同じく人間の習性習俗に合わせていこうという節が多いキャラであり、自分が作った繭を解いてハンカチに加工することを依頼したりしている。リーダースキルにもある通り「好奇心」が原動力のキャラなのだろう、かわいいね。

粛清者討伐戦

 現在延長戦に突入しているイベント「粛清者討伐戦」。そもそも先述の通りこのイベントの大一番、誰もが絶望しどうしようもなくなったのを救ったのが他の誰でもない、最初期のストーリーキャラである能天気植物娘と好好爺スケルトンだったことがあまりにも衝撃的かつ刺激的であり、それがこの記事を書き始めたきっかけである。ここも情報を拾っていくが、スキップするなどして見ていない方は今か後かは問わないのでぜひここのシーンを拝んでほしい。普通に情緒がメチャクチャになるので

深淵より響く

  • チャルアが発するそれは『呪い』の力であり魔王オーグの権能と近似しているが、そうではない。
  • それはチャルアによって起動され、レシタールに導かれ、リリスとディアによって増幅される。

 正直ベルセティアが「呪いの、力……。」とか言い出したとき完ッ全に終わった!ワーフリ第二部完!と思ったし、だからこそ直後のチャルアの明るい喝破とディーバ・メディアのバイナリープラネットで度肝を抜かれた。ワーフリは五感に訴える演出が多すぎる。

 レシタールが「力を貸してもら」い、リリスが「きっと誰にも宿る炎」に声を掛け、ディアが「この歌を」と言って聴かせる。この複数人で行われる術式をもって、チャルアは呪いを全く別の形に変状させる術を「教えてあげる!」と言うのだ。まったく訳が分からないが、泣ける。感動が先行するタイプの演出だった。

掴め、全ての子達よ。

  • チャルア詠唱「チャルア、星の子、世界樹の子。声を聞き、願い紡ぐ。悠久の継人……! その願い、その祈りを集え。歌響き、灯照らす、旅路を行くために!昏き蛇を、解け!!!」
  • チャルアは迷宮に遺された残留思念に願いと形を与えている。
  • 己の自由意志を描くエレメント。
  • これは命そのものを操る性質の術式である。
  • 粛清者は『転生』を繰り返しており、死に至らない。
  • シタールは粛清者のシステムを盗み取って自身の術式を起動している。

 ワーフリにおいて魔法に関する詠唱は数多く、体系化されてたりシャーマンだったりと様々である。詳しくは星見の図鑑の項目や他論に譲りたいが、それにしてもチャルアの詠唱は非常に特異だ。特に自身の意図が込められた末尾にある「昏き蛇を解く」とは一体全体何なのか

 また、レシタールとチャルアが生命操作に加担しているのにも驚きだ。詳しくは下記の自論に譲るが、人の生死に関する研究は闇星4リアンを中心に過去のキャラエピでも語られていた。これはもう思い切り禁じられたものであるということだったが、これをレシタールが詠唱していたのは何が起きているのか。

jimmy9609.hatenablog.com

星見の図鑑より

 ここにはキャラクターエピソードで語られた中でも特筆して引用しておきたい星見の図鑑の項目を列挙する。キャラエピで語られていない関係性や後日談がサラッと載ってたりするので、皆さんもお手元のワーフリで推しの図鑑をぜひ眺めてみてもらいたいし、面白いのがあったらぜひTwitterなどで呟いてもらいたい。楽しいは共有するとより楽しくなると思う。

世界樹

森の世界において最も古く最も巨大な樹木。

天を支えんばかりに高く、その根は大地ことごとくに這う。幹は太く中には多様な生命が棲まう。

青々と生い茂る葉は輝いて、尋常でない生命力に満ちあふれた存在。

 『精霊の楽園』世界の中心にそびえ立つ巨木、ライトがワールドフリッパーがあるだろうと看破したそこは、「尋常でない生命力に満ちあふれ」ているらしい。一般の作品なら大きな樹木に生命力が寄り集まっていてもおかしくはないが、ことワーフリにおいては少し事情がかわる。星見の図鑑はレシタールのページから飛べるこの項目があるのだ。

生命操作

リアンが行使する魔法が禁忌とされる理由。生命力をエネルギーとして扱う行為を意味する。

極めれば他者の生命力をエネルギーとして使用し続けることで、自身を疑似的な不死状態に保つこともできる。

理論上は死者の残留思念をもエネルギー転換して扱うことができるそう。

 生命操作、様々な創作物で禁忌とされながら、意外とダメな理由が明言されないやつ。リアンはキャラエピ内で枯れた花を咲かせたりしていたのでだいぶ片足突っ込んでるし、そこに豪放磊落筋肉王女が絡んできているので一気に胡乱になっている。何かの伏線なんですかねあそこ、触るの怖いんですけども。

 第2段落「他者の生命力を~自身を疑似的に不死状態に保つ」第3段落にある「死者の残留思念をもエネルギー転換」辺りがだいぶきな臭い。討伐戦終盤で語られた粛清者の機構に直接関係がある節だが、そこをハックしたのが不死者であるレシタールというのもだいぶ気になる。

考察

 ここまでが情報の集積、ここからそれらを踏まえた内容の確認と整理、その上での考察になる。考察と言ってもそう大仰なことではなく、読んでいて疑問だったり不思議だったりしたあれこれに理由をつけて、ああでもないこうでもないと繋げて読んでいく。考察がすごく楽しすぎるあまり、関連付けつつ思い切り飛躍してるところもあるので、飛躍したなあと思ってください。

 なお、ここまで羅列された情報を読んだり平素から考えたりしている時点で「こうではないか?」というものがある人もいるかもしれない。そうした場合は以降の文章を読んで試しにわたしと一致するかを確かめても良いし、これを閉じて自身の思考をどこかに書き始めても良い。お互い自由な身なので、一番楽しいことをやりましょう。

粛清者のうごきについて

 これに関してはラムスが説いていたように「転生」の機構を扱っている。これは同一の存在が再度発生することを行う慮外の方法であり、既存の古龍がそれを行っていると明言されている。もし古龍のそれと過程も同じな場合は記憶の洗浄も行われているはずだが、その辺りは不明である。ただ粛清者たちが統一した目標を口(?)にしているため、一定のインプリントを経ていそうなものである。ではその機構の原動力は何だろうか。

 これは不死者であるレシタールがその機構をハックできたところから、何らかのエネルギー、それも生命エネルギーを利用していたと推察される。それが霊魂精霊マナその他のどれなのかは判然としないが、生命操作の技術を転用していればこそ、討伐戦でのレシタールによる逆転劇が起こせたのだと言える。

シタールはなにをしたのか

 次にレシタールの過去についてだが、過去の悔恨が大きくクローズアップされている。これはレシタール武器や星見の図鑑に書いてある通り「あまたの争いを鎮めるために斬首用の大斧を振る」い、「かつてこの世界を牛耳った大罪人」として「生命操作の邪法により世界を滅ぼした」ことだろう。全人類滅亡の引き金となったことはまあ大きな罪悪に違いない、悔恨に泣き暮れるのも当然だ。

 そもそもレシタール自身からドロップする武器が3本とも別人のモノである訳がないだろう、もしそうならたいへん大きなミスリードだ。精霊の楽園がどのようにして形成されたかは不明だが、レシタールが大きく関わっていることは間違いない。死皇の書を読めば事足りるんだがなあ。

チャルアのやくわり

 では、あの術式の中心にいたチャルアは一体何か。キャラエピを拝む限り彼女は「神に近い存在」であり「継人」である。継人とは星見の図鑑にも書かれていない用語だが、ディアやリリスの描写から推察するに「王族など、上位者から権能を引き継いだ個体」を指すと思われる。

 そういったひと際違った権能を得た存在として願いを叶える一個体、クリスマスツリーのように誰かの願望を引き受ける一種の巫女や願望器のような役割を果たしていたのではないか。新たなる知的生命体云々はちょっと良く分からないが、そういうふうに発生したものなのだろう。うん。

あっけなくあいまいなオチ

 ……と、ついさっきまでかなり適当かつ曖昧に考えていた。特にレシタール周りは捉まえたがチャルアが良く分からないけど、分からないなりにもう提出しちまおう、そのうち図鑑に答えが載らあな、でも何がどうなったのだろうなあ、あっけないなあ、くらいのちょっと投げやりでちぐはぐな気分だった。

 そうしてレシタールについて最後の推理を試みて畳もうとしていた折、ふと推理小説の書き方の概念が脳裏をよぎった。これがかなり大きい落雷だった。どこかの時計塔イチお人好しな偏屈ロードに感謝である。

フーダニット、ハウダニット、アンド?

 順に見ていく。一つはフー‐ダニット(Who done it?)、「誰がやったか」を重視した推理小説だ。今回は精霊の楽園作成の下手人はレシタール自身である。粛清者討伐戦での立役者もチャルアとレシタールであり、初期勢のこの2人こそが実行者だ。これはわかりやすい。

 一つはハウ‐ダニット(How done it?)、「どのようになされたか」である。今回はどちらも生命操作の邪法と明言されている。これによってレシタールは過去に精霊の楽園に住む人々の命を奪い、粛清者には逆に生命を解放することでその転生を阻害している。ここも明言されている。

 もう一つは何か。すなわちホワイ‐ダニット(Why done it?)だ。訳すなら、「なぜそうしたのか」である。推理小説的に言えば犯行に至った動機の解明を主眼としたものであり、作品においては自白によって物語が幕を降ろしたり、最後まで分からないままで苦い読後感を与えたりする要素である。

 もうお気づきだろうと思う。レシタールが精霊の楽園で大量虐殺を行った、その動機、目的が全くの不明なのだ。彼はなぜ皆殺しにしたのか?何かの決意によって行われたのならば、彼はなぜ悔恨に今も暮れているのか?明らかにこの部分が覆い隠されている。ここが明らかにならない限りレシタールの意図に真に迫れたとは言えない、そんな強い実感に襲われている。

問い/考察主題の再定義

 ここからが本題である。冒頭では「彼は過去に一体何をしたのか?」を置いていたが、これではあまりにも曖昧過ぎる。この考察は、誰でも方法でも何でもない、シタールが「なぜ」行ったのか?彼の「目的」は何だったのか?を考察するものである。もうちょっと続くんじゃ。

結果から逆算する

 そもそもその星に住む人を鏖殺すると、どういった結果がもたらされるか。当然、だれもいなくなったという結果である。そりゃあ草木も生え散らかすし、魔物は繁茂していく。これは至極まっとうな帰結に思えるが、ワーフリ世界という箱において重要な点が二つある。

 一つには上位者の目的は人々の管理であるという点、もう一つにはワーフリ世界において「集団無意識」が重要視されているという点だ。順にみていこう。

上位者のお仕事

 上位者がこの世界で行っていることは二つある。まずはその星々に王族を設けて一定の権能を授けること、もう一つは勇者システムを構築して実行し、反乱を企てた世界を消滅させることである。どちらもメインストーリーやサイドストーリーで多かれ少なかれ語られる要素であり、特に後者はこれから歪みが現れてくる部分である。

 では彼らが管理すべき人々がいなくなるとどうなるのか。本来なら過去に存在した世界と同じく焼却漂白され、新しい歴史が与えられるはずである。しかし現実にはチャルアの星見の図鑑にある通り「上位者達も知らぬ最果ての地」となっている。そもそも上位者が構築した世界において彼らの目が行き届かない場所があるはずがないのだ。もしそうであるならそこは上位者に見捨てられたか、見る必要がなくなったか、見続けることが困難な深刻なバグが生じているか、である。

共同幻想と上位者の目的

 そもそも上位者の目的は何なのか。だいぶ推察が増えるが、上位者はフラスコの中に入った人々の可能性を観測しているのだと私は考えている。目的があるにしては崩壊気味の世界があるなど無軌道で、目的がないにしては勇者を設けるなど几帳面である。すなわちその中でどういった化合が起き、魔法を編み、共同幻想が生まれるか。その過程自体を何かの目的で視ているのだと考えている。

 ワーフリ世界で魔法を基礎づけている集団無意識は、こちらの世界で吉本隆明が唱えた「共同幻想」と近似すると個人的に思うことが多い。これはざっくりと言うなら、国家や法律は我々全員が〝ある〟と信じるから存在しているに過ぎない幻想だという論理だ。1960年代後半に唱えられたこの論理と同じものがワーフリ世界の魔法、あると皆が信じるからあるのだという信仰に近い魔法体系を形作っている。

 こういった慮外の権能を生み出す可能性、それを持つのが人間存在である。これを上位者は用意して配置し統治させたのであり、だからこそそれがいなくなっては観測する意味のない状態だ。中のカブトムシが逃げてしまった虫かごの観察日記を付ける人はいないだろう、上位者も同じく空っぽの虫かごを押し入れにしまってしまったのであり、その状況を形作ったのがレシタールではないか?という話に帰結する。

皆殺しの果てに

 一旦整理する。レシタールが行ったことは「人類の鏖殺」であり、方法は「生命操作」である。そしてここで目的として「上位者からの管理を逃れる」という仮定を代入している。こうするとレシタールが不死者であり続ける理由も察しが付く。すなわち自身も死者であると同時にたった一人の生者である状態を構成しているのだ。上で言う「見続けることが困難な深刻なバグ」である。

 上位者と勇者の描写を鑑みるに、上位者は勇者に一旦世界を漂白させてから新たに人類を用意していると推察できる。これは「生者がいないか」を探索して見つけ次第殺し、「生者はいない」ことをトリガーとして「新しい生者を用意する」というフローであろう。この流れの中で不死者=生きていて死んでいる存在、殺しても死なない存在はバグを生み出す。レシタールは不死者であり続けることで上位者のシステムに楔を打ち込み、星の漂白を防いでいるのだ。

シタールの悔恨

 ここまで一気に書き上げたが、自己反論を試みるとまずブチあたる論理がある。簡単に言うなら、これではどん詰まりなのだ。5章世界でアドミニスターが絶望していたのと同じく、人が複数いなければ新しい可能性を生み出す余地がない。魔法が集団無意識によって基礎づけられ増幅するなら、個人によってどこまで世界を形作れるのか。1周年イベントでプロキオさんがレジスに言われていたように、1人で自己の世界を拡張することは大変困難を伴う。だからこそアドミニスターは自身を分割することで人類を生み出そうとし、結果的に暴走したのは5章にある通りである。

 レシタールは星見の図鑑で「許されるとも許されたいとも思っていない」と独白している。すなわち彼が抱いている悔恨とは、死皇武器で語られた大虐殺のことではなく、その結果として得てしまった永劫の孤独のことなのではないか。誰かと喋ろうにも喋れない、相談も笑うこともできない、魔法すら描こうにも描けない、そういった詰んだ状況に落ち込んでしまったのではないか。

粛清者と不死者の違いは

 もう少し掘り下げると、さらに不整合な部分がある。粛清者も不死者も生命エネルギーを消費しており、粛清者もレシタールも志すのは「人間がいなくなること」である。このままでは、シタールと上位者とやっていることが同じになってしまうのだ。これではいけない。あの好好爺ガイコツと無慈悲粛清天使が本質的に同じだと考えるのは、あらゆる意味で不整合だ。これをどのように解決したものだろうか。

 ここで注目したいのは、1章8-3「不死の王」でレシタールが暴走していた際に吐いたセリフである。

永遠に続く闇の鉄鎖を、私と、共に

 永遠に続く闇の鉄鎖、とある。鎖とは何かを縛り付けるものであり、レシタールは何かしらを永遠に縛り付けているのだと分かる。「私と共に」と言うからには、ここで縛り付けられているのはレシタール自身が含まれているだろう。対して粛清者の目的は何か、これは人々を掃除することであり、少なくとも拘束したり回収したりする描写は見られない。ここに双方の相違点を見出したい。

シタールは何を〝している〟のか

 すなわち「魂を円環に回収する」ことと「呪いによる拘束と呪縛を行う」ことの差である。粛清者は生命を肉体から解放することでエネルギーに置換し、自身に還元するか上位者に変換していると推察される。詳しくは精霊やら霊魂やらを考える必要があるが、ここでは一旦脇に置きたい。粛清者によって死を得ることは、その霊魂は上位者側の管理下に置かれることになる。それらが回収し終わって初めて、新しい王族を設けるなどして新しいフラスコを用意し、別の世界が始まる。

 ではレシタールは何をしているのか。鉄の鎖で魂を必死に縛りつけている。誰の魂を縛り付けているのか、鎖されているのは自分の魂だけか。シタールは道を踏み外してでも、何を守ろうとしたのか

 ここで更に引用したいのが、粛清者討伐戦「掴め、全ての子達よ。」でのチャルアの、死者の残留思念に願いと形を与えた詠唱である。

昏き蛇解く継人の祈り

その願い、その祈りを集え。

歌響き、灯照らす、旅路を行くために!

昏き蛇を、解け!!!

 ここでは「昏き蛇が解かれる」ことで「死者として維持された魂が解放され」ている。逆説的に言うなら、死者の魂は解かれるまでは何かに縛られているのである。ここにおける昏き蛇とは、すなわちレシタールが口にした「闇の鉄鎖」と同一のものではないだろうか。『呪い』によって地上に思念を縛り付け、エネルギーとして還元していくのはまさしく魔王の行った所業そのものである。それは闇より昏い縛鎖であり、呪いの形象である蛇を模っている。

 何が言いたいか。シタールは今も自分もろとも、精霊の楽園に住まう人々の魂を一緒に縛り付け続けているのではないだろうか。そもそもレシタールは不死者であり、その維持には生命エネルギーを消費することは語られたとおりである。漫画『鋼の錬金術師』の賢者の石を連想させる機構、彼は自身の永劫の維持のために人々の魂を今も大事に抱えて縛り続けているのではないか。

鉄鎖で縛り付けられた魂

 ではなぜそのようなことをするのか。ここでもう少し踏み込んで一つの推察を挙げたい。すなわち魂を封じるのは上位者に回収されようとした自身のために維持しているわけではない、むしろその魂たちを、上位者に還元されないように必死に繋ぎとめているのではないか。レシタールは世界中の人々の尊厳を守るために肉体を滅ぼし、その魂だけを数千年に渡って守り続けているのではないか

 少し余談だが、もしレシタールが弑してきた人々の名前を憶えていたらとふと考えている。死者の名前については思い起こされるのが闇星4アンディのキャラエピである。彼も先に逝った仲間のことを永劫想い続ける不死者であり、キャラエピでもその執念が垣間見える。他にも火星3トレーネや風星5浴衣レオンなど、死者を背負って生きているキャラクターは数多くいる。飄々としながら彼らと同じく悔恨という呪いを抱えるレシタール、骸骨に身をやつしてまで不死を生きる彼は今、何を思っているのだろうか。

 彼が贖罪する機会はあるか、それはあり得ない。水着ソーヴィが語ったように精霊にもともとあった個は失われ、本来は対話が不可能な状態に留め置かれる。であるがゆえにレシタールは「許される機会を永遠に逃してしま」った。奇跡でも起きない限り死者はその肉体を取り戻さないが、レシタールは既に孤独を得てしまい、奇跡と魔法の根源たる共同幻想を抱けなくなってしまっている。やはり彼は、詰んでしまったのだ。

チャルアの僥倖

 この筋で考えると、このチャルアという存在は彼にとって僥倖以外のなにものでもないだろう。なにしろ上位者の介入の無い純粋な新規知的生命体が自然発生したのだ。永劫の孤独を癒すために目の前に現れたのである

 そもそもワーフリ世界で神とは誰かの願いを叶える存在である。2章世界に横たわっていた星砕きの巨神の中にも、人々の願望器が「神」として据わっていた。巨神?という方はサイドストーリー「共に誓う黎明」を30分程度で読んでくるか、下の記事を15分ちょっとで読むとよい。さっきもう読んだという人は友達だ。

jimmy9609.hatenablog.com

 さてそうなってくると、チャルアの存在機序が変わってくる。チャルアは自称の通り「継人」である。上述において継人とは上位者が選んだ端末であるとしていた。しかしこの考察においてはレシタールが上位者を全力で拒絶した果てに発生している。つまり上位者ではなくそれ以外の存在、例えば星自体に認められて星を継ぐ人になった存在ではないかという推察が立ってくる

 全てを繋ぎ留めながらこぼし続けるレシタールは喪失と悔恨に塗れ、しかしその悔恨を許される機会さえ失い、しかし彼は何かに必死に風と大地に祈りを捧げ、だからこそ彼女は彼のために、もう少し言うなら彼を許すために、無窮の時間の果てに生まれたのだろう。であるならばチャルアが相対した「歓喜の渦」とは、レシタールが数千年ぶりに何かを得たことを喜ぶことを指す。それは神に限りなく近いがゆえに失われることはない。彼女は上位者から与えられた限りある権能ではない、文字通り「悠久の」誰かの「声を聞き」「願いを紡ぐ」継人なのだ。

言葉と名前ある楽園

 ではレシタールは、自分の願いによって生まれた神たるチャルアから享受するばかりなのか。これは4-3「チャルア・チャルワ」に明言されている。すなわち彼はチャルアに、言葉と名前を与えたのだ。これは非常に大きいことである。

 レヴィ=ストロースが編んだ構造主義にあるように、人は対話や経験の相互作用、お互いの関係性によって自己を形成していき、その交流基底にあるのが交話のツールである「言語」であり、自身を他人と区別する「名前」である。これらが無ければ人は他人との文節を構成することができないし、そもそもワーフリ世界で共同幻想を抱くことができない。

 国家や魔法を我々全員が〝ある〟と信じるためには、その基盤である言語が共通していることが必要不可欠なのだ。言葉が通じなければ本質的に同じ夢を見ることはなく、名前を知っているからこそ我々は相手に正対して自分を見つめることが可能になる。存在を存在たらしめている勘所を、レシタールはチャルアに与えたのだ。

 この名前というファクターは他でも語られている。先述の通りホーニィの星見の図鑑がそれだ。「ホーニィ」という名前は自身と他の魔物とを画する一線であり、だからこそ自分を構築する枠組みとして機能する。人は他人に名前を名乗ることで相手の中に自分を作り、それと同時に事後的に自分がいることを、自分の名前によって自覚する。名付けとはそれだけ大きなイニシエーションであり、「個」を保つために必要な要素である。

シタールが最後に見つけたもの

 レシタール悔恨を抱えて充分に苦しんだだろうが、だからこそそこは『精霊の楽園』、意思無き自然現象や理性無き魔物が自分の名前を持ち、主体的に自己実現をするユートピアとなった。レシタールが陽気な性格となった理由もわかる気がする。彼は上位者から逃れるために得た昏く永い鎖縛の向こう側に、上位者も与り知らない新しい話し相手を見つけたのだ。

まとめ

 たいへん長くなった。色々書いた。まとめると、

  • シタールは生命操作によって人々を皆殺しにした。そしてそれは上位者の侵食から人々の魂を守るためであり、そのために自分を不死者に留めている。

  • シタールは永劫の孤独を悔いていた。だからこそチャルアはレシタールの孤独を癒すために生まれ、レシタールは彼女に名前を与えた。

  • シタールの生命操作は本質的には粛清者と同じであり、生命エネルギーの消費と固定を行うものである。だからこそ彼はその逆、生命エネルギーの励起と流動化を図ることで粛清者に致命的な打撃を与えた。

 の3点である。たぶん。不整合だったり言いすぎだったりする部分もあるかもしれないが、考察とは元来そういった放言を含むものだとも思っているので、これで良いのだと思っている。もちろん間違いがあったらそれはより正確にしたいが、文章を読んで「どうしてこうなったのか?」「実際はこうではないか?」と思ってくださったらそれだけでありがたい話だし、それをネットの海に書いたり出したりしてくれたらもっと嬉しい。

 ワーフリは、ストーリーが面白いのだ。考えれば考えるほど、味が出るのだ。

雑記、気になってること

 ここからはいま現在気になってるけど分からないから触れていない要素を置いておく。

 8-3「不死の王」の詠唱においてレシタール「水底」という形容を使っているのが引っ掛かっている。大きな海や池があるならいざしらず、森林地帯に水底?という話である。ここまで書いてみて途方もなく嫌な予感がしたのでここまでにする。扉ってなんなんだよ!

 どうにも精霊側にも時間や言語基盤が内蔵されている気がする。そもそも全く違う世界ごとに言語も時間概念も何もかもが一致しているのがまずおかしいのだ。そういう世界だからで済むならそれでいいし、そうでなければワーフリ魔法概念が根底から崩れるから納得はしているけど、何か理由があるならぜひ聞きたい。また上の考察で精霊とは何かを微塵も触っていないがそれはそれ。瑕疵があったら誰かがもっと良い形にしてくれるだろう。わはは。

 ライトたちが最初にこの世界に降り立った必然性があるかもイマイチだった。ステラが上位者の端末であるなら一番近くに登録された世界に行きそうなものだが、なんで『精霊の楽園』に飛んでしまったのか。壊れた女神だから、でよいのかしら。

 ハオも一生わからない。もう幼少期に流れ着いた漂流者の少年ってことで良いんだろうけど、そういう不如意な存在がたった1人いるものかなあ。流離譚的には実はどこかの王族の嫡男でした!って展開はお約束だけど、伏線が古びたぬいぐるみ一個だもんなあ。50年前の変動以降にやってこれたのが1人だった、なら納得かしら。頭の片隅に入れておく。

おわりに

ワーフリは、いいよ!

 ワールドフリッパーという作品に触れてマル3年、中学入学した人類が高校生に仕上がる歳月、カップラーメンが1000個は作れる膨大な時間である。だというのに飽きる気配がまったく無いし、新しい刺激をゲーム世界観音楽その他で絶えず提供し続けてくれている。もちろん不満がないかったらそんなことはないし思ったことはお便りに認めて逐一伝えたりしているがそれはそれ、大変楽しい。これからも楽しみたいし、色んな方々と一緒にやれたらなおさらです。今後ともよろしくお願いします。

宣伝!

 去年のこの頃に書いた、有用サイト群紹介記事を貼っておきます。攻略やら何やらでお世話になっている諸々で、ちょっと古いかもですが大体まとめたつもりです。パーティ構築に関してはTwitterで受信したりマルチで眺めさせてもらったりと完全に巨人の肩におんぶにだっこなので、もう感謝しきりです。いつもお世話になっています。

jimmy9609.hatenablog.com

 また今週末のワーフリ生放送にお呼ばれして60分ほどお喋りすることになりました。上にあるような考察記事を書き連ねていくと良いこともあるもんだ、長生きはするものだと思いながら口ん中カラッカラにして何かを言うと思うので、もしよければ是非いらしてください。12/23(金)21:00~、よろしくお願いします。

 おわり。改めて、ワーフリ3周年おめでとうございます。ここまで私は大変楽しく遊んできたし、これからもとっても愉快に遊んでいくに違いありません。これからも広がっていくワーフリというゲームを、それぞれがそれぞれのやり方で楽しんでいきましょうね!またTwitterとかで会いましょう!