ワールドフリッパー初の夏季イベント「大海の遺産」が終わった。配布の水着マリーナを始めとしたキャラクタービジュアルでの衝撃もさることながら、世界観設定的にもかなり重要な情報が目白押しのイベントだったという所感だ。
このイベントを曖昧にしてしまうと後に響くような、後から「ああ、この時彼は何と言っていただろうか」と煩悶するような、そうなる前に今現在の考察や未消化部分を明確にしておく必要があるような気がしてならない。なので今回はイベントの内容の整理と、その内容の考察を通して分かったことと分からないことを記録していく。
ルカが得たものは何か、アダラとは何者だったのか、ゼグラに愛はあったのか、それを私なりの解釈で明らかにしていく。
~ワールドフリッパー総合Discordの皆さん( ワーフリ総合Discord広報 (@WF_TotalDiscord) | Twitter )いつもお世話になっています~
ストーリー骨子・追加情報整理
あらすじでストーリーの本筋を振り返りつつ、そこからでは把握出来ない情報を下に追加する形で加え、そこから適宜考察していく。また途中で自分なりの感想も挿入し、今の所感を忘れないようにしていく。
1. プロローグ
夢から目覚めたマリーナは、消えた伝説の海賊ゼグラの遺産が発見され、カジノの景品になったことをラジオニュースで知る。水着姿で星見の街に現れたマリーナは、アルクを誘って冒険へと旅立つ
- ゼグラ船長は「マミヤマリナ」とマリーナを呼んでいた
- マリーナがゼグラの夢を見たその直後にジーンクォーツが起動した
「マミヤマリナ」、これは現代日本からの転移者であるマリーナの本名だと考えられる。少なくともゼグラ船長に本名を名乗る機会があり、その後に「朱の刃マリーナ」として活動し始めた、ということだろうか。ここはもう少しマリーナ自身について掘り下げる必要がある。
またこの名前はイベント報酬であるロケットランチャーに刻まれた文字「MM28」と無関係ではないだろう。先日偶然Discordの方でも話題になったが、私はこの数字を年齢だと解釈している。まみやまりな28歳、リアルな数字だ。
2. 冒険のはじまり
人工島リビルドランドのビーチで、オフを満喫する一行。ジェラールを馬代わりにして波打ち際を散歩するアリスが、飼い猫ダイナの呼び声に駆け寄ると、獣人の少年が倒れていた。慌てて介抱しようとしたジェラール達を海から現れた謎の生物が襲撃する
- マルグリッドとネスカはマリーナと知己の仲
- 4年前はマリーナは無名で、今は大海賊
- リビルドランドは人工島
ワーフリ世界のキャラクター同士が堂々と絡むシーンはほとんどなかったと記憶していたので、ここは衝撃的だった。どっとアニメーションと相まってキャラクターがあっという間に立つし、もっと見ていたいと思えた。この方向でこれからもよろしくお願いします。
4,5年前にマリーナが転移し、脱走直後のゼグラと出会った、という時系列で良いのだろうか。後で適宜まとめたい。
余談だがワールドフリッパー、時間経過を表す言葉の扱いが非常に丁寧だと感じる。幾つかの情報を重ねると、転換点が浮かびあがるようになっている。正直考えるのが超楽しい。ぽんぬ( @ppoonnuu )さんがscrapboxに纏められた年表が非常に奇麗だ。
3. 少年と海賊
マリーナは、朱の刃の二つ名を聞いて『父さんの部下だったーー?』と漏らした獣人の少年ルカを、ゼグラ船長の子供と断定し、輝くジーンクォーツを見せる。追われるルカと行動を共にすると決めたマリーナは、お宝を獲りにカジノ・スクラッパーに向かうことを宣言する
- ゼグラに近しい人物は「ジーンクォーツ(試験管に入った緑色の存在)」を受け継ぐ。それらは互いに引かれ合うもので、最近動き始めた
- ルカのジーンクォーツは彼の母親(恐らく故人)が預かっていた
- マリーナのジーンクォーツは本人が宝箱にしまっていた
ゼグラの遺産、ジーンクォーツとは何か。廃竜考察の時と同じくgoo辞書にお願いすると、
ジーン【gene】
1 遺伝形質を規定する因子。本体はふつうDNA(デオキシリボ核酸)で、染色体上のある長さをもつ特定の区画をいう。遺伝因子。ゲン。ジーン。 2 「DNA」に同じ。
クオーツ【quartz】
1 石英。水晶。 2 水晶発振式の、高精度の時計。水晶時計。クオーツ時計。
とあった。なので直訳すると「遺伝子情報が封じられた石英の結晶」ということだろうか。遺伝子とはゼグラ船長の遺伝子だろうが、それが水晶に封印され試験管に入っている様子がイマイチ想像できない。なのでもう少し調べると、以下の二つの記事に出会った。
https://www.chem-station.com/blog/2014/10/post-666.html
雑に抜粋すると、
- 固体内に五次元的に保存することでTB単位の情報を保存できる
- 液体として振る舞う石英内でも同様のことが可能
といった所か。通常の三次元に加えサイズ=互いの位置と向きの二軸を加えて五次元を構成するとは実に興味深い。今回はクォーツが試験管に入っていることから液体の方だろう。複数のクォーツを近づける=サイズに変化が生じることで新たな変化が起きている点でも信憑性は高いと考えられる。
まとめると、ジーン・クォーツとはつまり「液状の石英内に情報素子を浮遊させることで成立した大規模記憶媒体」といったところか。超科学どころの話ではないが、それだけの技術をゼグラは保持していて、自分の優秀な部下と陸に残した妻に預けた、ということになる。現状で時系列を考えるとゼグラは「研究が行き詰り、不老不死を諦め自分を遺そうとして、ジーン・クォーツを信頼出来る相手に与えた」、というところだろうか。
4. カジノ・ロイヤル
ジグラ船長との関係を問うルカに宿敵と答えて去るマリーナ。その背中を追うルカは、アルクに『負けませんからね』と一方的な宣戦布告をする。翌日、ネスカとマリーナがメルト・スロットへと挑んで衆目を集める裏で、ベルセティア達は宝物庫へ潜入する
- 一人で努力をするアルクをルカは「弱いから努力をするんだ」「人の顔色を伺っている」と断じて嫌うが、マリーナはそうではないと言う
- マリーナとゼグラ(不老長寿の薬を探すと言って仲間を死地に追いやっていた)は道を違えた
ルカがアルクに迫るシーン、逆にとるとルカは「強ければ努力する姿なんて見せない」「人の顔色を伺うのは恥ずかしいことだ」という心理を持っていると取れる。なんだか野良ネコのような、敵愾心の強い心理だが、何か原因があると思ってよいのだろうか。少なくともこういった性格描写をしたからには、何か意味があると考えるべきだ。
マリーナが語るエピソードは、ゼグラは先天的に不老不死因子を持っておらず、後天的に超人たる遺伝子を獲得した、という解釈で良いのだろうか。後述の共同研究者という表現からもそういうニュアンスが取れるので、きっとそういうことなのだろう。うん。
5. 海賊らしく
イルミのイリュージョンで、メルト・スロットに惜しい目を連発させる作戦が限界に近づいた頃、予定外の合流を果たしたアルク達を追いかけて、竜(×龍)が姿を現す。これじゃ正面から殴り込んだのと変わらないとぼやくマリーナに、ネスカが『海賊らしくない?』と答える
- アリスはジーンドラゴンを「気持ち悪いの」と表現した
ラーゼルトさんがリプライに使いやすそうな発言をした伝説のシーン。マップが馬鹿でかくて初見は腰を抜かした記憶がある。ドット絵一枚で一辺何pixelあるのか見当もつかない。そのマップ上でキャラを動かし、ストーリーを進めている。すごいゲームだなあ(童心)
6. 誤算
三つ揃えたジーン・クォーツが輝き、ゼグラ船長の声がマリーナとルカを招くが、通信機がアジト急襲を報せる。劣勢に挫けず槍を振るうジェラールと援軍に駆けつけたアルク達に、エレメント・グレネードを投げつけた白いスーツの女性が、ルカを連れ去る
- ジェラールとライトの泥沼な死闘アニメーション大好き
- リーゼルはヒーラーよりはクレリックに近いジョブ
- イルミさんの臨機応変な光魔術スキルが光る
- 星詠みのアダラはジェラールに「あなたは巫女と共に消えた筈」と呼ぶ
- アダラはルカを必要としていた
ジェラール関連の所はフィリア関係者に事情聴取しなきゃなので今回は置いておく。先代ジェラールが関係していた、という情報を得るに留めて以降の考察に資したい。それにしてもジェラールの声優さんの演技最高に良いな???アニメーションと相まってクソ死闘してる感がビンビン感じられてたまらんかった。内田雄馬さん、覚えたぞ。
リーゼルとイルミに関しては先にTwitterで語ったところなので以下のツイートで代用。こういう細かい性格演出の手つきがワーフリを一生信用できるポイントだ。
https://twitter.com/jimmy_9609/status/1293168566670200832?s=21
https://twitter.com/jimmy_9609/status/1293174893941415938?s=21
7. チェイス・チェイス!
白いスーツの女アダラは、共同研究のパートナーだったゼグラ船長が、研究成果を持ち出して姿を消したとルカに語る。アダラの艦隊に追いついたマリーナ達は、ルカ奪還のため、各個撃破を試みる
- ゼグラとアダラは共同研究者だった
- ゼグラは研究成果を持って5年前(?)に逃走した
- ミアちゃん始め一行の華麗な戦闘アニメーション!
ルカが鍵というよりは、ゼグラ抜きでの研究が行き詰ったから突破口として求めていた、という感じだろうか。確実にルカが変異を起こす確信があったわけではなく、そうであるに違いない、そうであってほしい、という願望が透けて見える。実際失敗に終わった直後に反証をすぐさま組み立てていたし、致し方ないという所感だ。
アリスーラーゼルト、ライトージェラール、マルグリットーリーゼルのようなキャラ同士の掛け合い本当に見てて楽しい(n回目)。皆キャラが立っているんだから軽率にどんどんやってほしい。外伝コミカライズとかお待ちしてます。
8. 敵陣潜入
制圧した艦隊からはルカを発見できなかった一行。イルミが光の力の歪みに気づき、イリュージョンを放つと、隠れていた潜水艦が姿を現す。マリーナは、アルクと共に潜入を試みる
- イルミさんの臨機応変な光魔術スキルが光る(2回目)
- マリーナは姿を消す潜水艦を事前に知っていた
アルクがちゃんと主人公していて非常に安心したし、ベルセティアのアルクへの信用の厚さも見て取れた。どうしてそこまで彼に信頼を置くのかは、これから明らかになるのだろうな。おお、こわいこわい。
↑ここすき↑
…余談だが、リーゼルが説く「星の導きがありますように」という文句を私は果てしなく信じられていない。ただでさえ外部の術師から驚かれるワーフリ世界の魔法体系において、六元素のどれにも拠らない権能が機能しているとか得体が知れなさすぎる。いつか考察したいが、これもまあ怖い。前に砂漠の考察でも触れたけど、「星」って何なんでしょうね?
9. ゼグラの遺産
アダラがルカに見せたいものとは、ヒトの殻を破ったゼグラ船長だった。海賊ゼグラの遺産とは、金銀財宝ではなく、人が人をやめるための技術『上位に至る鍵』だと語り、ルカを拘束するアダラ。乱入したアルクは、ルカを解放して仲間の元を目指す
- アダラはドラゴン種を研究していた
- アダラは試験管の中の飛竜とルカを「兄弟」と形容した
- ゼグラは変異遺伝子を所持していた
- 試験管の中の飛竜はゼグラのそれを強引に移植されたもの
- ルカはゼグラのそれを受け継いだ唯一の存在
- ゼグラは「禁断の力」「かつてこの世界の人類が手にした人が人をやめるための技術」「上位に至る鍵」をみつけた
- ゼグラはルカの母を置き去りにした
- ゼグラは人の殻を破った=人の似姿を捨てたが、アダラは「足りない」と形容する
- ゼグラはルカを呼んでいる、アダラはルカを「最後の鍵だ」と解釈した
- アダラはルカに赤い液体を注入し「人間をやめ」るよう仕向けた
情報多すぎるパート。脳死しかけた。
「上位」のワードが飛び出すとは思わなかった。現状では8章冒頭でエデュケウス氏が魔界のことを形容する「上位者により棄てられた、流刑の地」と形容している。今回のイベントで、上位の存在あるいは力は「禁断」で「人をやめる」ことであり「かつてこの世界の人類が手にし」ていた、ことが分かった。ここはゼグラの言葉と絡めていつか改めて深めたいが、あらすじで「人の殻を破ったゼグラ」って表現にしているのつくづく良い趣味していると思った。
「竜≒ドラゴン」が登場したのも意外だった。単純に敵として出る分にはゲーム的演出として扱えたが、わざわざ作中で試験管の中に浮かべて言及がなされたからにはここにも意味がある。特にジーンドラゴンは遺伝子改造を彷彿とさせる命名である意味象徴的だ。「竜種」を研究することが、上位に至る鍵とどう関連するのか。
ルカはたびたび、ゼグラが母親を置き去りにしたことをなじっている。少なくとも彼の母親にとってゼグラは大きな存在であり、ルカはその様子からゼグラに対して不満を抱いている。ここと前夜のアルクとの掛け合いから、この話の原動力、テーマ性まで言える気がしている。がんばれ下の方を書く時の私。
10. 海賊ゼグラ
追い詰められたアルク達の元にベルセティアとマリーナが駆けつけ、形勢が逆転する。ベルセティアがアダラを追って姿を消すと、咆哮が轟き、アルク達の前にゼグラ船長が現れる。ジーン・クォーツの力で全てを知ったルカとマリーナは、ゼグラ船長へ向けて思いを叫ぶ
- アダラはルカが「変異」を起こさなかったことに「別の遺伝子が混じったからだ」「価値が無い」と解釈した
- ベルセティアさん激おこ
- ゼグラは自分が生きているうちにマリーナとルカに「すべて=不滅の肉体、永遠の存在となる力を継がせ」ようとして待っていた
- ルカは超人ゼグラの声が聞こえている
- ルカの母親はゼグラが迎えに来るのを待っていた
ゼグラの言う「上位者」とは「不滅=永遠の存在」だったらしい。どういった経緯でアダラと繋がったのか、交友関係はどうだったのか、どこまで行ったのか、全く定かではないが幾つか推測は出来るだろう。それをルカはどこまで考えていたのか、これも少し考えたいところだ。
ルカの母親を、ルカ自身は大事に思い、アダラは「混じり物」と断じた。ではゼグラ自身は?彼は彼女をどう思っていたのだろうか?両者とも作中に登場しないため推測に推測を重ねる必要があるが、それでも言えることはあるだろう。彼女を登場させたからには、意味があるはずだ。
ゼグラの咆哮に「うるさい」と返しており、ルカはゼグラの声が理解している明確な描写がある。隣のマリーナがそういう様子を示さない所から、これは他ならぬアダラが引き起こそうとした“変異”の結果と言えるだろう。(一応反証となりそうな描写として、直後にマリーナから「宝をくれてやるつもりはない」という発言があったことを明記しておく。)
水着ベルセティアを所持していないため判然としないが、やはりワーフリ世界の核心を担うキャラの一人なのだろう。引ききれなかったことが悔やまれるので、次の復刻ではきちんと引こう。
11. 宝の奪還
警報音が響く中、脱出口が見つからず諦めかけたマリーナ達の前にステラがアメリアを伴って現れ、一行は全員無事に合流を果たす。ゼグラ船長の知識が眠るジーン・クォーツを持って里帰りするルカを見送ったアルクに、ステラ達がバカンス続行を宣言する
- 戦いの後アルクは「ルカの声が頭の中に響いた」と発言した
- アダラはベルセティアを「狭間の魔女」と呼んだ
- アダラは追われる際に「なぜ私達を…」と自称した
- ベルセティアはドラゴンを研究する様子を見て「混沌は私の望む事でもある」と理解を示した
- アルクちゃん大事
- ライトの「置いていかれるのは思った以上に身に堪える」ってセリフ激重
- ゼグラの知識はルカが受け継いだ
- ルカの「さよなら」一生聴いてられる。声優さんは一体どなたなんだ
ルカの「さよなら」一生聴いてられる(重要語)。声優さんは一体どなたなんだ…どこにも書いていない…頭の中に声だけ響いている……。
声と言えば、アルクが聞いたルカの声とは何だったのだろうか。直前にあったルカの叫び、ゼグラの動きを止めた意志ある慟哭がそれに該当するのか、それとも何か別の思考が伝わったのか。そもそも思考が他人に伝わることがあるのか?もしあるならそれこそ、超人的な能力だ。
アダラとベルセティアの関係は材料が少なく、フィリアや騎士やエルフやの考察と結びつくのでここでは深堀りしないことにする。唯一言うなら、アダラ"達"の進む方向は“混沌”の部類であり、今のベルセティアもその方向性を否定しなかったことだ。ここで言う混沌とは何か。
考察
この辺りでひと段落だろうか。色々な疑問点を洗い出したので、それぞれをつなぎ合わせて、語りたいように語る。少しとっ散らかるに違いない。
ゼグラ船長とは
ゼグラ船長の人物造形
自分の力で何事も成し遂げ、絶大な信頼を勝ち得たにもかかわらず、自分の死を前にして怯え、何とかしてしまおうとした人。ギルガメシュ王然り始皇帝然り、現世に栄誉を得た人は不老不死を求めてしまうのは避けられない心理だと思う。
この点に於いて「異世界に来て心機一転生きようとする」マリーナにも「ゼグラに怒りただ問いかけようとする」ルカにも、何ら響かなかったのは当然と言える。ゼグラのエゴによって近しい人を亡くしている両者にエゴイスムを見出され、その生を閉じることになる。
一方で彼はエゴイスムの権化とも言い切れない。その証拠が「ジーン・クォーツ」だ。彼は「二人は別だ」「自分の全てを譲る」と吐露している。これは親が子に引き継ぐような、彼が次世代を直視した証だ。不老不死であれば「何かを譲る」という行為は不要だ。その中で彼らに自分の遺伝情報を託していたということは、彼の隠れた献身性の表れだろうか。
まあそれもマリーナに「気持ち悪い」と一蹴されているが。因果応報、しめやかに合掌である。
待つ人と追う人
物事は大抵の場合二項対立に置くとすっきりする。今回はゼグラの周囲の人を二種類、「待つ人」と「追う人」に大別したい。すなわち「追う人」はマリーナとルカ、「待つ人」はルカの母とゼグラだ。アダラは後述する。
ここで肝心なのは、この場合の「追う人」は決して自分が待つことを選んでいないし相手が待つことを期待していないことだ。
マリーナは「突っ返すため」とルカは「母さんを置いていった理由を聞くため」と言っているが、二人とも相手からの返答を求めているとは思えない。マリーナは良いだろう、ルカはゼグラが何を語ったら、母の死を、目の前の男をずうっと待ち続けて朽ちていった母の有様を仕方なかったと納得しただろうか。彼は結論を求めていない、と考えている。
対称的にゼグラを待つことを選んだルカの母を、ルカ自身は「人の顔色を伺ってばかりだ」「だから捨てられた」と考えているだろう。これはアルクとのやり取りを整合的にとると見えてくる。母の有様を半ばトラウマの様に捉えているからこそ、アルクの誰かのために努力する姿は醜く映った、という描写だったと私は捉えている。
マリーナとの比較
ここにおいて、追う二人にも違いが見えてくる。すなわち誰かを信頼し協同することを良しとするか否かだ。マリーナは誰かと何かをするのが好きで大きな海賊船団を築き上げたし、ルカは誰かを深く信頼したがためにその身を滅ぼした肉親を知っている。この二人は似た境遇にありながら、実に対照的だ。
加えて言うなら、ルカはマリーナに対して当初、嫌悪感に近い敵対心を抱いたことだろう。「この女性になびいたから自分の母は捨てられたのか?」という疑惑を抱くのは半ば当然である。ルカとマリーナ、太く大きな関係で繋がれた二人だろう。
ルカの母親という存在の大きさは
ルカの母は捨てられたのか
では、彼の母は本当に捨てられたのか。半分はそうだと言える。自分の息子に全てを託したということは、逆に言えばその母親には自分のために究極の献身を要求したことになるだろう。ルカ本人はそれを察して抗議に来たし、母親当人はそれを受け入れている。そして結果としてゼグラは妻と同じ道のりを辿り、その遺伝子はルカの手の中にある。
ではそこには何の愛も無かったのか、私はそうは思わない。理由は、ジーン・クォーツの存在だ。彼はマリーナとルカの母にのみ自分の全てと言えるこれを預けている。ここから少なくとも「ゼグラはルカに期待を寄せ、その側に立つ人として彼女を求めた」と言えよう。
打算とは違う何か
更に考える。ルカの母親に与えられたこれは本当にゼグラの打算の産物、自分の息子にのみ向けられた愛情だろうか。ここで興味深いことに行き当たる。「死を悟ったゼグラが、自分の遺産を継ぎたいからルカを用意した」と考えると、時系列に違和感が生じるのだ。
イベント当日を起点にして、5年前にゼグラはアダラの元を脱走し、その後マリーナに出会っている。マリーナにジーンクォーツが渡ったのはこのタイミングだ。ではルカの母親にジーンクォーツが渡ったのはいつか?ルカの年齢は5歳児にはとても見えない。だからゼグラがアダラの元にいる時、マリーナに会う前に、ルカの母にジーンクォーツが渡ったと考えられる。
しかしこれでは「ゼグラが研究に行き詰まり、死に瀕したから脱走してジーン・クォーツを遺した」という時系列が崩れる。この矛盾をどう考えるべきか。私は「マリーナのジーン・クォーツには打算的メッセージが含まれていた」が「ルカのジーン・クォーツには何の打算も無かった」と考えることで、この矛盾を解決したい。
ルカの母は、ゼグラが心から信頼出来る相手だったと考えたい。大海賊ゼグラとして、自分の遺伝子だけでなく全てと言える情報まで預けてしまえるほどに。だからこそ彼女にだけは欲望抜きにジーン・クォーツを託したし、マリーナにはそれと感応して初めて起動する打算的メッセージを篭めた、と解釈している。
現代世界における聖書の伝道者として知られる男と同じ名前を持つルカ。彼は母親にとってゼグラの似姿であると同時に、彼女にとっての福音だったのではないだろうか。彼の存在はゼグラからの信頼の証であり、彼女に安心をもたらしたのではないか。
ゼグラを取り巻く女性たちの相違点
悲哀のアダラ
さて、深みから戻って口直しにアダラについて考えるとする。彼女の研究に関しては先述の通りジェラール考察の方向、あるいは龍種云々の考察でいつか誰かがやるだろうから、深くは触れない。
考えたいのは、アダラの立ち位置だ。すなわち待つか追うか、これがまあ非常に微妙な位置にある。
彼女はゼグラを待っている。しかしゼグラは彼女を求めない。当初は待っている彼女を求めてくれていたが、共同作業で築き上げた二人の成果物を持ってゼグラは消え、遺伝子を他の二人の女性に遺していった。最後には自分からゼグラを手に入れようともしたが、ゼグラは既に人の殻を捨てていた。
彼女はルカを追っている。しかし彼は彼女を求めない。むしろマリーナと同じく「母の代替物」として捉えていたと考えるのが自然だし、そう考えると彼女が放った「貴方は混じり物だ」という発言は紛れもなく母への侮辱であり、ルカの逆鱗に触れるものだったに違いない。
ここのルカに拒絶されて「残念ですね」という台詞、ここは半ば本心だったのではないだろうか。彼はゼグラの似姿であり、腹違いの忘れ形見である。ゼグラの面影を、パートナーと信じていた男の横顔を、彼に見ていたのではないだろうか。また口付けのシーンで頬を染めていることからも、それが読み取れる。
あえて現代語に結び付けるが、アダラとは「adder」と綴ればオランダ語の「蛇」となる名前だ。このモチーフは彼女の狡猾さ、目的のために手段を択ばない性質と合致する。
一方で「Adhara」と綴ればおおいぬ座のイプシロンを指す固有名詞、原義を辿ればアラビア語の「乙女」を表す語にも結び付く。二人の男性を求め、そのどちらからも求められることのなかったその有様には、狡猾な蛇の裏側に女性としての悲哀が隠れているようにも見える。
アダラは狂気のマッドサイエンティストであった。フィリアやルカへの仕打ちからこれは覆せない。しかしその片隅で、彼女はたった一人の男を求め、それすらも得られない悲劇が描かれていたと私は考えている。最期にゼグラとの研究物に囲まれて狭間に散った彼女に改めて、合掌である。
比較から見るルカの母親の本質
ゼグラの周囲には3人の女性がいる。マリーナ、アダラ、そしてルカの母である。彼女らを「追う=求める」という概念で改めて区分けて、その登場人物としての性質を明らかにしていく。
ゼグラはマリーナを求めたが、マリーナは彼を求めなかった。彼の支配性や独善性に嫌気が差し、新しい海賊としての在り方を示している。彼女はこれからも誰かと協同することを忘れないだろう。そうしなかった末路を知ったからだ。
ゼグラはアダラを求めなかったが、アダラは彼を求めた。それが研究のパートナーとしてかそれ以上かは判然としないが、私は彼を想っていたと考えている。末路は推して知るべしだが、ある意味一途にゼグラを求め続ける姿を示したと言えるだろう。
ルカの母は、どうだったのだろうか。上の二人と違う役割をと考えると、二人とも求め合っていた、という関係が自然と浮かび上がってくる。ゼグラの愛を受け子を設け、きっと彼女は幸せだったに違いない。ゼグラは彼女の元に戻らなかったが、彼の遺産は彼女らの息子が持っている。最大の幸福ではないだろうが、求め合った夫婦にとって良い結末だったのではないだろうか。
ルカという存在のかけがえのなさ
ルカは何も得なかったのか
最後だが、その二人から生まれたルカは何も得なかったのか。ゼグラの寵児たる彼は、アダラの介助あってなお何も無かったのか。ジーン・クォーツを受け継いでいるから、作品の成長物語として一応の説明は付く。
ではそれだけか。戦闘後の不思議なやり取りがそれを否定している。アルクが聞いた声とは一体何だったのだろうか。そもそも何故彼はゼグラの声を聞き、アルクに声を届けることが出来たのだろうか。
ここでアダラの研究を考えたい。彼女が研究しゼグラが体現した、かつての人類が手にしたという上位者に至る禁断の鍵は一体何だったのだろうか。それは本当にゼグラが作中で言う「不老不死」という要素だけなのだろうか。
それは獲得した人が求める欲求を叶える、あるいは上位者として必要な機能を全てインストールする存在だったのではないだろうか。これではほとんど万能に近いが、ゼグラは万能の存在にはなっていなかった。以下にその推察の過程を並べる。
思うに、彼らの成果である上位者を上位者足らしめる権能は、一つではない。ゼグラは自身の「不老不死」という欲求を叶えるようにその権能を部分的に発現させているに過ぎない。何より不老不死であることのみが上位者が上位者たるとは思えないのだ。
二面性と他者理解
では、ルカは何の権能を得たのか。それは彼の本質を見つめるとおのずと見えてくる。私が考えるのは「相互理解」の力だ。相手の意識を非言語的に理解し、自身の思考を相手に直接伝える、それがルカが望んだことであり、自身の血脈によって獲得した権能である。
彼の旅路は不理解に彩られている。自分を放置した父たるゼグラへの、その部下たるマリーナへの、そして父を盲信して死んでいった母への、理解出来なさは相当なものだろう。何より煩悶する自分への理解し難さもある。彼は二面性を発露し、大人の女性には適応しながらも同年代のアルクには厳しく当たり、どちらが自分の本心かも掴ませない。これは思春期という言葉では少し片付けられない普遍的な心理だ。
夏目漱石の「こころ」にもある通り、我々には人の思考は分からない。相手の表面と裏側の二面性を疑う気持ちはだれもが持っているばかりか、自分の本心すらも掴み損ねる生き物だ。ルカも同じく相手が何を考えているのか知りたかったのではないか。父には「どうして母を置いていったのか」、そして母には「どうしてそうまでして父を信じられるのか」。言葉ではない相手の本心が知りたく、また自分の本心をどうすれば把握できるかを煩悶していたのではないか。
そうして得たのが「相互理解」、ゼグラの咆哮から意図を聞き取り相手の脳内に自分の叫びを直接伝える力、相手との理解を深める権能だ。少なくともこれは我々人類の課題であるし、上位者が後天的にでも獲得している可能性は否定できない。未来を描いた作品ならたまに見る要素だ。
あえてまた現代知識に結び付けるが、聖書におけるルカは医者の身でありつつもキリスト亡き後に巡教し、福音書を書き著すなど大業を成している。他の伝道者の手記にも“側にいる人”として登場し、相手の気持ちを理解することにたけた人物として書かれている。
最後にルカは旅に出た。私にはこれが巡礼への門出に映る。大声で「またあいましょう!」と叫びつつ、「さよなら」と心で呟くという二面性を備えながら。信頼し合った父母から与えられたかけがえのない遺伝子と、アダラという女性、蛇の意味を持つ女性から与えられた赤い知恵の結晶から発現した権能を持って、二本の足で立って。
テーマとあとがき
どんな作品にもテーマ、主題、伝えたいことがあると私は考えている。具体的な創作物に込められた作者の抽象的な意図や思想や方向性を読み手が受け取って解釈して初めて「作品は成立した」とも言える。「面白かったなあ」「エモい」で立ち止まらず「なぜこんなに感情を揺さぶられるのか?」と掘れば掘るほど面白さの解像度は上がり、その愉快度は更に加速する。
この作品のテーマだが、だいたい上の通り「二面性を抱えた少年の一人立ち」「待つ人と追う人のすれ違い」の二つに読めている。前者を軸にルカの成長を描き、その下地に後者の要素をアダラやルカの母を中心に登場人物を立たせている構図だ。アダラについての掘り下げは無いに等しかったが、再登場はあり得るのだろうか、それはベルセ姉だけが知っている。
それを前提に改めて思い出の中で拝みなおすと、なんと丁寧に作られていることか。今回の考察はいつもに増して推測が多かったと自覚しているが、それでも「こうだったかもしれない」という推測に裏付けを見出せるくらいには伏線や意味づけがなされている。大変面白い、素晴らしいイベントだった。
長く書きすぎた、この辺りで終わりにしたい。今はイルサバディカ狩りが始まったばかりだが、次のイベントはいつだろうか。コラボだろうか、それとも季節イベント?どうあっても楽しいに違いない。またキャラ同士の掛け合いで楽しませてくれるに違いない。
~追伸~ 前書きにも書いたが、私はDiscordというチャットツールを使ってワーフリ界隈と交流を深めている。パーティ編成から世界観考察論議からただの雑談から、かなり充実している場所だ。Twitterのアカウントの様子から雰囲気や情報密度も察せられると思う、相談や考察がしたいが場所が無い、という方は一度覗いてみてはどうだろうか。
リンク: https://discord.com/invite/yDuc9an Twitter: ワーフリ総合Discord広報 (@WF_TotalDiscord) | Twitter
また、過去にワールドフリッパー世界に関する記事を幾つか書いている。興味があれば覗いてみてほしい。
感想とかそういうものがあったら、Twitterのリプライに貰えると助かります。
おわり。